Jul 11th, 2022

小田嶋隆先生ありがとう!【東京四次元紀行】

ニュースになっていたのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、コラムニストの小田嶋隆さんが6/24に亡くなりました。
わたしは小田嶋さんの文章講座を何度か受講したので、小田嶋「さん」というより小田嶋「先生」の方がしっくりきます。

先生の講座を最初に受講したのは2014年。
慶應義塾が主催するビジネスマン向けのスクールで開催された、3ヶ月間のコースでした。
わたしはできそこないの生徒でしたが、小田嶋先生にはたくさんのことを教えていただきました。

先生にとって遺作にして処女作となった小説についてお話しします。
この作品はエンタメとしても明晰な文章のお手本としてもオススメ!

『東京四次元紀行』小田嶋隆
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B1TY4RGC


書き起こし

ニュースになっていたのでご存知の方も多いと思うんですけれども、コラムニストの小田嶋隆さんが6月24日に亡くなりました。

本日、収録日が7月9日。ほんとはね、先生が亡くなってすぐに、結果的に先生の遺作となってしまった小説『東京四次元紀行』という小説のですね、レビューをしたいなーと思っていたんですけれども、まあ読み終えるのとあとは私自身の気持ちが整理できるまでにちょっと時間がかかりまして。少し間を置いてのレビューとなっております。

そもそもですね、これ小説の発売日は6月の頭だったんですね、なので紙で買っていればすぐ読めたんですけれども。Amazonでね、電子書籍で予約したところ電子版がたぶん23日だったかな発売日が。なので先生が亡くなる前日ということで、本当は先生にも感想をお届けしたかったんですけれども。とってもそこが悔やまれるなぁと思いつつ、23日から読み始めました。

てですね。私が校長先生とつい言ってしまうのは、実際私にとって小田嶋隆さんは先生でありまして、断続的になんですけれども小田嶋隆さんが主催される文章講座に私通ってまして。3回受けたうち最初の2回ですね、濃い時間を先生と過ごさせて頂いたのは。最初のビジネススクールに通った時はですね、3ヶ月間隔週で開催される講義を受けて。毎回ね、次の課題みたいなのが最後に発表されまして、その課題に沿って文章を書いて提出するっていう。これなかなかハードなんですよ、やってみると。

最初何となくカルチャーセンターみたいなノリで通い始めたんですけれども、始まってから「しまった」って思うぐらいハードでした。そうですね、1回あたり文字数制限とか全然なかったんですけれども2000字とか3000字ぐらいかな、文章を提出するんですよ。会話文とか誰かにあててお手紙を書きましょうとか、なかなか日常生活では書かないような文章が課題として提示されていたので。それもあってね結構苦戦しながら毎回書いて出しておりました。
そんなわけで小田嶋先生とは少ないながらも面識がありましたした、私は問題児だったりもしたのでそういう意味でも先生も覚えてくださってました。思い入れがすごく先生に対してはありまして、そんなわけでこの番組の中では小田島先生と呼んでしまうのをお許しください。

で、先生の遺作となった小説『東京四次元紀行』というものなんですが、これは遺作にして小田島さん初の小説なんですね。もともと小田島先生はコラムニストということでネット上でもたくさん記事読めるので、もし興味があれば検索していただくと見つかると思います。読みやすい所で行くと日経ビジネスかな。日経ビジネスのWeb版でずっと連載をされておりまして、「ア・ピース・オブ・警句」というタイトルのコラムをずっと書かれておりましたので、この辺りですね。検索していただくと読めると思います。

でね、読んでもらうとたぶんね好き嫌いがはっきり分かれる文章を小田島さんは書くんですね。コラムニストなので当然と言えば当然なんですけど、理屈っぽいと言うか、論理的な常に明快な文章ではあるんですけれども、結構ね、言い回しが独特だったりとかとやっぱりちょっと難しい文章なのかな。「ハイコンテクスト」っていうことを先生は実際講座でもよくおっしゃってましたけれども、裏を知らないと、背景の知識が無いとちょっと理解できないような部分とかもありますので、そんなに平易な文章ではなかったかなと思います。ただ読みやすいかどうかというと非常に読みやすい文章を書く方でして、それがですねこの小説にも存分に活かされています。

私正直ね、あんまり今回のこの『東京四次元紀行』みたいな小説って得意じゃなくって。ショートショートなんですね、すごく短いお話がいっぱい入ってるんですけれども特にプロット的に「すごく衝撃的な何かがある」とかっていうわけではなくて、いろんな市井の人たちの日常を描く、みたいな感じの内容ですね。もちろん人物設定はかなり特殊なものもあったりするんですけれども、そういう意味では興味津々で読めちゃったりもするんですが、ただ何だろうな、身も蓋もない言い方をしてしまえば「で、何?」みたいな感じのお話です。

『東京四次元紀行』というこのタイトルがついてるぐらいなので東京の23区が舞台になっておりまして、一つ一つの話が全てこの23区の中で起こってるんですね。1番目が「残骸」というタイトルなんですが、これ新宿区のお話です。で、2話目が「地元」というタイトルの江戸川区のお話です。というように、23話それぞれ何かしらのタイトルがついていろんな登場人物が現れてお話が進んでいくというしつらえになっています。
最初の6話はうっすら繋がりがあるんですよ。登場人物が前のお話に出てきた人がまた出てきたりとかして一連のお話になってるんで「これは面白いなぁ」と。「面白い構造だなぁ」と思って読み進めてたんですが、その後の17話は何か異なるお話みたいな印象でした。その後ろに短編がいくつかくっついて一冊になってるって言うような、そんな感じの作りでしたね。

「ギャングエイジ」台東区の話、これはね私すごく好きだなーって思いました。子供が主人公なんですけれども、仲間たちと一緒に都バスに乗っていつもの自分たちの暮らしてるエリアからちょっと離れたところに行くんです。ところがそこで道に迷ってしまって……っていう、ほんとに些細なお話なんですけれども。なんかね、自分の子供時代を思い出すと言うか「自分もきっと子供の頃こんなことあったよね」っていうような、もしかしたら無いかもしれないけどあったかのように錯覚しちゃうぐらい、ありありとした表現、描写、素晴らしいなぁと思いました。そしてね、ちょっとしたオチというほどでもないんですけれども、単純「子供が道に迷いました」だけではない展開が少し後ろの方にあって、それもまたで味わい深くって。何か読後感、余韻がとってもこう……なんでしょうね、しみじみといい感じに残る。すごく私はこれは秀逸な作品だなぁと思いましたね。また台東区が舞台ってのもいいじゃないですか。下町のほう、浅草とかあの辺ですか、とってもいいなあと思いました。

読み応えとしては、もう十分お腹いっぱい。会社辞めてフリーランスになってからは、なかなか時間を作って本を読むことが難しくなっちゃって、限られた時間を何にあてるかって言うと結局自分の仕事に関係する技術書だったり、寝る前とかにさらっと読める軽いエッセイとか、小説でも軽い物っていうのが主になってしまっていたので、小田島先生が書くような若干難解というんでしょうか、気合い入れて読まなきゃいけない文章って久しぶりだったんですけれども。それでもねやっぱさすがコラムニスト、さすが我が師匠という感じで、まあ文章が明晰なんですよね。なのでとっても読みやすかったです。一気に読めちゃいました。3日ぐらいかな、まるまるじゃないですよ仕事とかしつつ合間合間にちょっとずつ読んで3日ぐらいで読めちゃいました。ので、これはね相当読みやすいほうだと思います。

(文章講座では)私は本当にね、恥ずかしいぐらい落ちこぼれで。最初受講した2014年の段階ではですね、ちょっと自信あったんですよ。そりゃ私だって丸腰じゃないですよ。そこそこ文章を書けると思ってたし、実はその段階で書籍も何冊か出してたんですよね。まあ技術書なので文章力なんていらないんですが、それでも一応人に読んでもらう文章を書けると思って参加したにも関わらず、ですよ。
もうね、課題で提出した文章をボロクソ……ボロクソってほどでもないけど、当時の私にとってはボロクソにけなされたぐらいの印象で。「理子さんが書く文章は意味が分かんない」ってはっきり言われましたからね(笑)
そういう講座に来る人って、10名から15名ぐらいだったのかな、まあまあ少人数だったんですけど、みんな腕に覚えがあるじゃないですか。皆さんめちゃくちゃ文章お上手なんですよ、ちょっと引くぐらい。その中にあってね、完全ど素人みたいな感じで私ぽつんといまして。だから最初に受講した3ヶ月間はちょっとした地獄でしたよね。自分が書いた文章がみんなにさらされるんです。みんなの前で講評もされちゃうんで、本当に“針のむしろ”って感じでしたけど。

ただね、じゃあ泣きながら通ってたかって言うとそんなこと無くって。へこむんですけど、有意義なアドバイスをしっかりくださいますし、クラスの雰囲気もよくて何回かに1回はみんなで飲みに行ったりとか。講座終わった後で。そういう時もね、小田島先生はもともとアルコール中毒を彼は経験してるので一切お酒は飲んでいらっしゃらなかったんですけど、でもみんなと一緒に居酒屋に行ってニコニコ座って参加してくださるというような感じでね。
柔和なね、楽しいことが多分大好きな方だったんだろうなと思います。TwitterとかSNS上で小田島さんの文章を読んだ方は多全然そんな風に思えないと思うんですけれども。全くああいった攻撃性みたいなのがない方で。もちろんちょっと皮肉屋さんだったりとか、物事を斜めから見るようなところはありましたけれども。でもね本当に会って顔を見て言葉を聞いてると、いつも目が笑ってるんですよね。理性で優しさを包んでるような感じの方でした。

ただ私にとってシーズン1はやっぱり下手くそなまま、褒めてもらえないまま終わった感じだったんですね。翌々年かな、リベンジと思って全く同じそのビジネススクールの全く同じタイトルの先生の講座を受講しまして。そんな人はなかなかいないと思うんですけどね。しかも自腹だからね、こちとら。会社にお金出してもらえないんで、個人で出すには凄い高い講座だったんですけれども「まあいいや」と飛び込みまして。
私にとってのシーズン2では我ながら大いなる飛躍を遂げまして、その後何回か、小田嶋先生とは講座終了後もお食事ご一緒したりとかする機会があったんですけど、その時にね、えーとちょっと正確な文言と言うか先生に正確にどう言っていただいたかは覚えてなくて残念なんですけれども「理子さんは、私の指導が成功した何人かのうちの一人です」というようなことを仰って下さったんです。先生は大学で教えたりもしてたんですけれども、たくさんの人を教えてきた中で伸びしろというんでしょうか、最初が駄目だったぶんジャンプアップしたというようなことを仰ってくださって。

「成功例の一つ」みたいに言ってもらえたのがね、本当に嬉しくて励みになりました。先生が講座の中でもおっしゃってたんですけど、やっぱり書かないとうまくならないっていうのは本当で、そういう意味ではシーズン1シーズン2と通ってたぶん多少なりとも「千本ノック」は効いたのかなーっていう感じはしますけれども。こうやって褒めていただいたことも、多分私にとっては一生の誇りとして残っていくでしょうし、これからも先生が残してくださった教材とか見ながら精進していきたいなと思っております。

もうちょっとまとまったお話をしたかったんですけれども。やっぱりまだまだ私は先生のことを語るには時間が経ってないから、もうちょっと経たないと整理できないかなという気もいたします。
ただその一方でですね、この『東京四次元紀行』、本当に面白いです。何て言うの?「親ばか」じゃなくて「教え子ばか」だから言うわけじゃなくてね、文章がとにかく明晰で読みやすいですし、お話もとんとんとんとテンポよく進んでとても楽しいですので。読後感もね、やっぱりね小説って独特ですよね、映画ともまた違って読んだとぼんやりしちゃうような感じの読後感も味わえますので。
いろんなことが起こる世の中ですから、ちょっとこう「ショートトリップ」みたいな感じで小説の世界に足を踏み入れてみるのもいかがでしょうか?

ということで、一人でももし興味をもって『東京四次元紀行』、小田嶋隆先生の本を手にとってくださったら今回の配信は成功かなと思っております!

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